【短編小説】嘔吐2023
漫才を見ると吐く女は、
特に何があったわけではない。
「なんで頭がいいのにレジ打ちのバイトなんかしてんの?
「好きですから、レジ打ち」と彼女は答えた。「
「人としゃべらなくて済むから」と僕は言った。
それから僕はバインダーに挟んでいた予備のチェックシートの裏へ
「電話、かけてみました」と彼女は言った。「
「それってどんな本?」
「ある男女が瓦解する話」
「詳しく聞かせてよ。
彼女の電話を受けて食事に誘おうと思った理由は大きく分けると三
あの晩僕たちはジョナサンで何時間過ごしていただろう。
居候生活が始まると一日がやけに長く感じられる。
彼女は、早稲田大学の理工学部を主席で卒業し、
"大胆不敵でありながら工芸品のような優美さと繊細さを兼ね備え
"羽生善治棋士が打った一手により既存の手筋が押しなべてアップ
"その技術は、当然作者が本を読み、
「もう少しストレートにものを言えないもんかな」
ありとあらゆる物事には光があれば影がある。
彼女は煙草を引っ切り無しに吸いながら定期的に詩を創作し定期的
例えばあなたが彼女と何か話そうとする。
「映画どうだった?」
あなたは反対に流れる車窓の景色を見ながら、
では、やり直そう。お雑煮の文化の話の時点で、「
スターウォーズとお雑煮文化が?はて?
あなたは、お雑煮の文化の話を無碍にも出来ず、
ここで、「関連してるってどういうこと?」
ほら、その配慮がいけなかった。その謙遜がいけなかった。
全く、一体どうやって数学を生徒たちに教えていたのだろう。
漫才を見ると吐く女は、
僕たちが同棲して八年が経った。
僕たちは放送当日、
「ねぇ、バイトしてた時よりさ、真面目にやってる感じしない?」
「俺はね。
「ううん、ちっとも真面目にやってなかったよ」
ピカソの星月夜が描かれたマイバッグから大量の食品を冷蔵庫に入
彼女はそう言うやいなや、
「それ返して!」彼女は僕の手から文字入りの袋を奪い取ると、
結局、嘔吐は三時間以上続いた。嵐のような激しい嘔吐だった。
僕はくるんだティッシュを開き、促音たちを摘む。「っ」や「ょ」
「大丈夫、自分で捨てるから」と彼女は言った。
結局彼女は本戦の漫才を一つも見ることはできなかった。
決勝進出した芸人たちが一斉に故意に転倒する中、
「もぐら!水田もぐら!水溜まりボンドとコンビなんだよ。
もしボードレールがパンクロック歌手だったなら
めっちゃムカつく。
なんにも分かってない、客も、偉そうな評論家共も。バンドの奴らも。
そもそも、いろんなことから解放されたくて音楽やってんのに、
ノリとか韻律とか、そんなこまけーことに拘泥しやがって。テクに溺れて。
練習時間や成果を観客に嗅ぎ取ってもらいたいなら、パンクをやるべきじゃない、オケでもピアノでもやったらいい。
俺は消えてなくなる前に、暴れたいだけ。
それが俺の音楽。
パリの灰色のお空みたいに、沈痛な顔して終わりを待つのはいやだ。苦しい。
泣きそうだ。もうだめだ。
極彩色の光を浴びて、ライブ中は、俺が俺でなくなる感覚で、
別物になってみたい。できれば光の粒子みたく、めちゃくちゃちっこくなってみたい。
人間はめちゃちっこいのに、イキって、言葉だ芸術だ、と偉そうだ。
いやになる。身の程を知れ。俺含め。
死ね、死ね、死ね、死ね、死ね!
死ね、死ね、死ね、死ね、死ね!
死ね、死ね、死ね、死ね、死にたまえ。
死ね、死ね、死ね、死ね、死ね!
おっ、おーお、おっ、お、おーお、おっ、おっ、
ドラムの音が鳴った。
ボードレールはマイクを両手で包み込んだ。
そして、かすれてガラガラになった濁声で言った。
「まずは "午前一時に"」
C
やつと独りになれた!G Em Am Fmaj7 G7 C
聞えるものはのろくさい疲れきつた辻馬車の響ばかり。F Fm Am C G
暫くは静寂が得られるのだ、安息とは行かないまでも。Dm Em Fmaj7 G G7
暴虐をほしいまゝにした人間の顔もたうたう消え失せた、C Em Bm Cm7
俺を悩ますものはもう俺自身ばかりだ。
(『パリの憂鬱』収録の「午前一時に」より抜粋)
…なんだお前ら。
半端な顔して、半端に突っ立って。
パリのお空を顔に浮かべてるんだろ?プライド持てよ、その憂鬱に。
… … …。
… … …。
まぁ、分かるよ。お前らの事。
今日は会えてよかったよ。
でも、分かるってのは同じって意味じゃないよ。
お前らと俺は違うんだ。
俺は、もう家に帰る。
最後の曲は、テープに録ってあるから、これを流します。
すいません、できますか?
…どうもありがとうございました。じゃ、俺帰るから…。
歌、よかったら聞いてって。
あ。そこのあなた。そう、赤毛の…。「 」のところ、歌ってくれる?
ありがとう。
じゃあ。
あなた方でこの歌を完成させてください。Passez une bonne nuit.
人生は一つの病院である。
そこに居る患者はみんな寝台を換へようと夢中になつてゐる。
或るものはどうせ苦しむにしても、せめて煖爐の側でと思つてゐる。
また或るものは窓際へ行けばきつとよくなると信じてゐる。
私はどこか他の処へ行つたらいつも幸福でゐられさうな気がする。
この転居の問題こそ、私が年中自分の魂と談し合つて居る問題の一つなのである。「ねえ、私の魂さん、可哀さうな、かじかんだ魂さん、リスボンに住んだらどうだと思ふね?
あそこはきつと暖かいからお前は蜥蜴みたやうに元気になるよ。
あの町は海岸うみぎしで、家は大理石造りださうだ。
それからあの町の人は植物が大嫌ひで、木はみんな引き抜いてしまふさうだ。
あすこへ行けば、お前のお好みの景色があるよ、光と鉱物で出来上つた景色だ、それが映る水もあるしね。」私の魂は答へない。
「お前は活動してゐるものを見ながら静かにしてゐるのが好きなんだから、オランダへ
――あの幸福な国へ行つて住まうとは思はないかい。
画堂にある絵で見てよくほめてゐたあの国へ行つたら、きつと気が晴々するよ。
ロツテルダムはどうだね。何しろお前は檣マストの林と、家の際に舫もやつてある船が大好きなんだから。」私の魂はやつぱり黙つてゐる。
「バタビヤの方がもつと気に入るかも知れない。その上あそこには熱帯の美と結婚したヨーロツパの美があるよ。」
一言ことも言はない。――私の魂は死んでゐるのだらうか?
「ぢあお前は患わづらつてゐなければ面白くないやうな麻痺状態になつてしまつたのかい?
そんなになつてゐるのなら、『死』にそつくりな国へ逃げて行かう
――万事僕が呑み込んでゐるよ、可哀さうな魂さん!
トルネオ行きの支度をしよう。いやもつと遠くへ――
バルチク海の涯はてまで行かう。出来るなら人間の居ないところまで行かう。北極に住まう。
そこでは太陽の光はただ斜に地球をかすつて行くだけだ。
昼と夜との遅のろい交替が変化を無くしてしまふ、そして単調を――虚無の此の半分を増すのだ。
そこでは長いこと闇に浸つてゐられる。
北極光は僕等を楽しませようと思つて、時々地獄の花火の反射のやうに薔薇色の花束を送つてくれるだらう。」
遂に、突然私の魂は口を切つた。そして賢くもかう叫んだ、
「どこでもいゝわ! 此の世の外なら!」(『パリの憂鬱』収録の「ANY WHERE OUT OF THE WORLD この世の外ならどこへでも」を引用)
ライブ終演後、まばらな客に向かって赤毛の女が物販コーナーで叫ぶ。
「よろしくお願いしまーす!全50曲入りです!4000ユーロでーす!ぜひお求めくださーい!」
収録曲
1 異邦人
2 老いた女の絶望
3 芸術家の告白の祈り
4 おどけ者
5 二重の部屋
6 人はみな噴火獣を背に負って
7 道化師とヴィーナス像
8 犬と香水壜
9 商売下手のガラス売り
10 深夜一時に
11 野蛮な女と気取った恋人
12 群衆
13 寡婦たち
14 老いた大道芸人
15 菓子
16 時計
17 髪のなかの半球
18 旅へのいざない
19 貧しい子供の玩具
20 妖精たちの贈物
21 誘惑 またはエロス、プルートス、栄光の女神
22 黄昏
23 孤独
24 計画
25 別嬪のドロテ
26 貧しい者の眼
27 英雄的な死
28 贋金
29 気前のいい賭博者
30 縄
31 性向
32 バッカスの杖
33 酔うがよい
34 もうすでに!
35 窓
36 描くという欲望
37 月の恵み
38 どちらが本当の彼女か
39 純血種の馬
40 鏡
41 港
42 愛人たちの肖像
43 粋な射手
44 スープと雲
45 射撃場と墓場
46 光輪の紛失
47 ビストゥリ嬢
48 ANY WHERE OUT OF THE WORLD この世の外ならどこへでも
49 貧者たちをぶちのめせ!
50 気のいい犬たち
スピッツドラフト会議2023(後半)
Special Album『色色衣』
収録曲
01. スターゲイザー
02. ハイファイ・ローファイ(NEW MIX)
03. 稲穂(NEW MIX)
04. 魚
05. ムーンライト
06. メモリーズ
07. 青春生き残りゲーム(NEW MIX)
08. SUGINAMI MELODY
09. 船乗り
10. 春夏ロケット
11. 孫悟空
12. 大宮サンセット
13. 夢追い虫
14. 僕はジェット (previously unreleased track)
■指名
むる猫BOY→ムーンライト→メモリーズ
ぴっぴ→ムーンライト
S氏→魚
むる猫(私)とぴっぴ氏、3回目の競合。えんぴつ抽選の結果、
「ムーンライト」が取れなかったのはかなりの痛手。
怪しげなイントロから始まってサビで疾走し、
楽曲単体でもいいし、
ぴっぴ氏が、「スーパーノヴァ」→「アカネ」→「ババロア」→「
時間経過や場所の移動を感じさせるような指名を続けていて、
S氏は、ホタルに続いて魚を獲得。
果ては「たまご」まで取っているが、
加えてその楽曲たちは、皆きらきらと輝いている。
11th Album『スーベニア』
収録曲
01. 春の歌
02. ありふれた人生
01. 甘ったれクリーチャー
04. 優しくなりたいな
05. ナンプラー日和
06. 正夢
07. ほのほ
08. ワタリ
09. 恋のはじまり
10. 自転車
11. テイタム・オニール
12. 会いに行くよ
13. みそか
■指名
むる猫BOY→ナンプラー日和
ぴっぴ→優しくなりたいな
S氏→ありふれた人生
私は沖縄民謡チックな「ナンプラー日和」、
S氏はオーケストラをバックに人間の普遍的感情を歌う「
お互いにとって良い指名ができた回だと思います。
自分がぴっぴ氏なら、「ほのほ」でムードをつくりたいな、とか、
とか考えてしまうかもしれませんが、
「恋のはじまり」をここらで忍ばせたり、前述の「甘ったれ~」
やはり当初のテーマである「奇妙 & Cool」に準ずることにしました。「ナンプラー日和」もまた、
最後の"風に逆らって Woo 飛ばせ"後のギターコードの運びがどこか切なくて大好きです。
12th Album『さざなみCD』
収録曲
01. 僕のギター
02. 桃
03. 群青
04. Na・de・Na・de ボーイ
05. ルキンフォー
06. 不思議
07. 点と点
08. P
09. 魔法のコトバ
10. トビウオ
11. ネズミの進化
12. 漣
13. 砂漠の花
■指名
むる猫BOY→群青
ぴっぴ→桃
S氏→P
こんな頭のおかしい企画を続けていると、
10曲を超えると、なかなか統率できなくなってくるんですよね。
そろそろそのよくわからん謎の計算もショートしてくるというか。
そんな中で、「群青」「桃」「P」をそれぞれ指名。
のちに反省の弁も口にしてましたが、ぴっぴ氏の「桃」
「永遠という戯言に溺れて」
S氏の「P」指名は、なんか腑に落ちたところがあります。
私なら「P]は獣たちが目を開ける神の語りとして、
そういう自分は、
はんだごてのように、
13th Album『とげまる』
発売日:2010/10/27
収録曲
01. ビギナー
02. 探検隊
03. シロクマ
04. 恋する凡人
05. つぐみ
06. 新月
07. 花の写真
08. 幻のドラゴン
09. TRABANT
10. 聞かせてよ
11. えにし
12. 若葉
13. どんどどん
14. 君は太陽
■指名
むる猫BOY→花の写真
ぴっぴ→聞かせてよ
S氏→探検隊
『とげまる』では、
「幻のドラゴン」「えにし」「どんどどん」
ぴっぴ氏の指名した「聞かせてよ」
S氏の「探検隊」は、個人的にはこのアルバムで一番好きですね。
14th Album『小さな生き物』
発売日:2013/09/11
収録曲
01. 未来コオロギ
02. 小さな生き物
03. りありてぃ
04. ランプ
05. オパビニア
06. さらさら
07. 野生のポルカ
08. scat
09. エンドロールには早すぎる
10. 遠吠えシャッフル
11. スワン
12. 潮騒ちゃん
13. 僕はきっと旅に出る
■指名
むる猫BOY→エンドロールには早すぎる→scat
ぴっぴ→エンドロールには早すぎる
S氏→ランプ
もうええて!(爆)
私とぴっぴ氏、4回目の競合。
エンドロール欲しかったなー…。「scat」には悪いけど、
手帳になんとなく指名した楽曲たちを分類分けしながら進めていた
私は「scat」は「ヘチマの花」「エトランゼ」
ヘビーな楽曲が続いた後とかに少しアルバムの方向をずらすために
例えば「ヘチマの花」の前は、ハードロック(長めの激しい曲。
「scat」も鍵であることには変わりないんですけど、
実際は、
まあ、順番についてはのちに考えよう、と思いました。
15th Album『醒めない』
発売日:2016/07/27
収録曲
01. 醒めない
02. みなと
03. 子グマ!子グマ!
04. コメット
05. ナサケモノ
06. グリーン
07. SJ
08. ハチの針
09. モニャモニャ
10. ガラクタ
11. ヒビスクス
12. ブチ
13. 雪風
14. こんにちは
■指名
むる猫BOY→ヒビスクス
ぴっぴ→グリーン→ガラクタ
S氏→グリーン
ここにきて、ぴっぴ氏とS氏がはじめての競合!
結果は、S氏が勝利し、「グリーン」を獲得。ぴっぴ氏は、「粟、
「ガラクタ」をチョイス。ここでもぴっぴ氏は、「ヒビスクス」
ちなみに、今回のドラフトでは『
『おるたな』はカバー曲が多いため、対象から外しています。
「ガラクタ」とのバディがぴったりな、
で、へんてこで、
今回は大好きな「ハチの針」を獲りたい衝動を抑えて「
分類としては「8823」、獲らなかったけど「ロビンソン」
16th Album『見っけ』
発売日:2019/10/09
収録曲
01. 見っけ
02. 優しいあの子
03. ありがとさん
04. ラジオデイズ
05. 花と虫
06. ブービー
07. 快速
08. YM71D
09. はぐれ狼
10. まがった僕のしっぽ
11. 初夏の日
12. ヤマブキ
指名
むる猫BOY→まがった僕のしっぽ→初夏の日
ぴっぴ→まがった僕のしっぽ
S氏→YM71D
もうええて!!!!!!(再)
5回目の競合、もちろん(?)引き当てたのはぴっぴ氏。
「まがった僕のしっぽ」は特徴的なフルートのイントロから入り、
このプログレな曲も「トンガリ95」のように、
奇をてらっているようで、つくりこまれたサビの歌詞。
例えどんな形でも想像しなかった色でも
この胸で受け止めたいし喚起で吼えてみたい
誤解で飛びかう石に 砕かれるかもしんないけど
夜明けに撫でられる時の ぬくもりに浸りたい
勝ち上がるためだけにマシュマロ我慢するような
せまい籠の中から お花畑嗤うような
そんなヤツにはなりたくない 優秀で清潔な地図に
禁じ手の絵を描ききって 楽しげに果てたい
「~したい」で終わるねじれた願いの表現が、秀逸ですよね。
前半・中盤・後半の目玉曲として「8823」「ヒビスクス」「
そんな中、S氏はエロティカルで軽やかなスピッツ的AOR「
私は、疲れたので『初夏の日』を選びました。
アコースティックギターが映える曲が一つ欲しかったんですよね。
Special Album『花鳥風月+』
発売日:2021/09/15
収録曲
01. 流れ星
02. 愛のしるし
03. スピカ
04. 旅人
05. 俺のすべて
06. 猫になりたい
07. 心の底から
08. マーメイド
09. コスモス
10. 野生のチューリップ
11. 鳥になって
12. ヒバリのこころ
13. トゲトゲの木
14. 353号線のうた
15. 恋のうた
16. おっぱい
17. 死にもの狂いのカゲロウを見ていた
■指名
むる猫BOY→スピカ
ぴっぴ→コスモス→マーメイド
S氏→コスモス
豊かな彩りを極力排し、
最後はぴっぴ・S氏チームのあでやかさにも惹かれて、
欲しかった「まがった僕のしっぽ」よりも、
ほとんど曲順を意識できずに指名を進めてきましたが、
そして、初めてのぴっぴ×S氏の競合!!!結果は、S氏が「
煌びやかな世界に浮遊感と死の臭いをまぶしました。
ぴっぴ氏は、コスモスと似た曲を入れることは不可能と判断し、
17th Album『ひみつスタジオ』
発売日:2023/05/17
収録曲
01. i-O(修理のうた)
02. 跳べ
03. 大好物
04. 美しい鰭
05. さびしくなかった
06. オバケのロックバンド
07. 手鞠
08. 未来未来
09. 紫の夜を越えて
10. Sandie
11. ときめきpart1
12. 讃歌
13. めぐりめぐって
■指名
むる猫BOY→未来未来
ぴっぴ→紫の夜を越えて
S氏→Sandie
ぱんぱかぱ~ん!これにて終了しました。
------------------------------
終演 0:00
開演が20:00だったので、
その間、私はハイボールを4杯飲み、ぴっぴ氏は煙草を5本吸い、
さて、ここから順番決めだ…と絶望していましたが、
なんとS氏はある程度順番を定めながら選んでいたらしく、
【むる猫Boyプレイリストのリンク】
【ぴっぴプレイリストのリンク】
【S氏プレイリストのリンク】
以上、お読みいただきありがとうございました~!
次はもう少し規模を縮小してやろうと思います。
#スピッツ
#スピッツドラフト会議
#すぴどら
スピッツドラフト会議2023(前半)
ルール
・スピッツが発売したオリジナルアルバム17枚+
・曲の指名競争は、同じアルバム内から行われる。まずは、1stアルバム『スピッツ』
・NPB主催の一般的なドラフト会議では、
使用ツール
https://online-draft.vercel.
えんぴつ(参加者の氏名を書いている。抽選用)
参加者
1,むる猫BOY
…ブログの書き手。小学生の時からスピッツを聴き始め、
参加者の中で最もスピッツを聴いているはず。
好きなアルバムは『スピッツ』。
2, PIPPI CHANCE(ぴっぴ)
…サザンオールスターズとショパンを愛する女性。
スピッツも幼少期より聞いていたが、
参加者の中では「スピッツ初心者」に位置する。
好きなアルバムは『三日月ロック』。
3, S氏
…京大出身の頭脳明晰なスピッツ・ファン。
ロックに留まらず幅広く音楽をたしなみ、
表記
・アルバム名は『』、楽曲名は「」で記述した。
・楽曲情報は公式サイト(https://spitz-web.
スピッツドラフト会議 開演
(20:00~)
1st Album『スピッツ』
発売日:1991/03/25
収録曲
01. ニノウデの世界
02. 海とピンク
03. ビー玉
04. 五千光年の夢
05. 月に帰る
06. テレビ
07. タンポポ
08. 死神の岬へ
09. トンビ飛べなかった
10. 夏の魔物
11. うめぼし
12. ヒバリのこころ
■指名
むる猫BOY→テレビ
ぴっぴ→月に帰る
S氏→夏の魔物
ルールを基に始めたものの、
私(ムル猫BOY)の初指名は、「テレビ」。
この時点では、方針らしきものはほとんど確立していない。
ただ、全19曲の壮大なアルバムとなるため、
アルバムとしての聞かせどころをつくること、
スピッツ初心者、ぴっぴ氏は「月に帰る」を指名。周りから「
長いアルバムの中で、方向性を変えたり、起点となったり、
アルバムが物語性を獲得しうる、そんな気配が満ちている。
頭脳明晰なS氏は「夏の魔物」を指名。
非常に固い手。うら寂しさ、疾走感、
アルバム内の音楽的ピークをつくる起爆装置としても、
競合は無く、3人とも単独指名に成功。
この時点では、まだ方法論が全くない状態なので、皆頭に「?」
思えばこのころは平和だった。
2nd Album『名前をつけてやる』
発売日:1991/11/25
収録曲
01. ウサギのバイク
02. 日曜日
03. 名前をつけてやる
04. 鈴虫を飼う
05. ミーコとギター
06. プール
07. 胸に咲いた黄色い花
08. 待ちあわせ
09. あわ
10. 恋のうた
11. 魔女旅に出る
■指名
むる猫BOY→待ち合わせ
ぴっぴ→プール
S氏→魔女旅に出る
1曲目の指名が終わり、
私は「テレビ」のインパクトに負けないよう、
ぴっぴ氏はギター・ベース・ドラム・
S氏は藤井聡太竜王も大好きな、アルバムのラストを飾る『
3rd Album『惑星のかけら』
発売日:1992/09/26
収録曲
01. 惑星(ほし)のかけら
02. ハニーハニー
03. 僕の天使マリ
04. オーバードライブ
05. アパート
06. シュラフ
07. 白い炎
08. 波のり
09. 日なたの窓に憧れて
10. ローランダー、空へ
11. リコシェ号
■指名
むる猫BOY→惑星のかけら
ぴっぴ→ローランダー、空へ
S氏→僕の天使マリ
スピッツが一般的な知名度を獲得する前のいわゆる初期三部作の指
私は常々、本作収録の「アパート」をマイ・
蓋を開ければ誰も「アパート」を指名していない。
ぴっぴ氏は、およそ初心者とは思えない「ローランダー、空へ」
S氏はカントリー調の軽快な佳曲「僕の天使マリ」を指名し、
4th Album『Crispy!』
発売日:1993/09/26
収録曲
01. クリスピー
02. 夏が終わる
03. 裸のままで
04. 君が思い出になる前に
05. ドルフィン・ラヴ
06. 夢じゃない
07. 君だけを
08. タイムトラベラー
09. 多摩川
10. 黒い翼
■指名
むる猫BOY→夢じゃない→君だけを
ぴっぴ→夢じゃない
S氏→タイムトラベラー
スピッツがはじめて商業的な成功を意識したとされる4thアルバ
結果、えんぴつ転がし抽選により、ぴっぴ氏が獲得。
『夢じゃない』の重複は、
その話題と共に参加者全員が近々で聴いていた、
抽選に敗れた私は代替案として『君だけを』を指名。
5th Album『空の飛び方』
発売日:1994/09/21
収録曲
01. たまご
02. スパイダー
03. 空も飛べるはず(Album Version)
04. 迷子の兵隊
05. 恋は夕暮れ
06. 不死身のビーナス
07. ラズベリー
08. ヘチマの花
09. ベビーフェイス(Album Version)
10. 青い車(Album Version)
11. サンシャイン
■指名
むる猫BOY→迷子の兵隊→ヘチマの花
ぴっぴ→迷子の兵隊
S氏→たまご
連続で指名競合。えんぴつ抽選のうえ、またもや、ぴっぴ氏が『
氏曰く「迷子なのに、
この「迷子の兵隊」は自分の中では代えがたい曲で、
何となく、「テレビ」を初っ端に獲得し、
奇妙なロックが入れ替わり立ち代わり現れるアルバムにしようかな
迷った挙句、あえて対照的な寺本りえ子氏とのデュエット曲「
混沌の中で聞き手を安心させるオアシスのような時間をつくろうと
S氏は、独自路線的にミドル~
ぴっぴ氏のチョイスは、多岐にわたっていて、その上で過去・
6th Album『ハチミツ』
発売日:1995/09/20
収録曲
01. ハチミツ
02. 涙がキラリ☆
03. 歩き出せ、クローバー
04. ルナルナ
05. 愛のことば
06. トンガリ'95
07. あじさい通り
08. ロビンソン
09. Y
10. グラスホッパー
11. 君と暮らせたら
■指名
むる猫BOY→トンガリ'95
ぴっぴ→Y
S氏→愛のことば
二回抽選を外したむる猫BOYこと私は、本来の?
手帳に「奇妙 & Cool」なぞと書き込み、それを踏まえて「トンガリ'95」
ドイツ語でSpitzは”尖った”の意であり、「トンガリ'
ただ、もしも「迷子の兵隊」を獲得できていれば、「ロビンソン」
「迷子の兵隊」も「トンガリ'95」
ぴっぴ氏は、まるで夢の中にいるような幻想的なナンバー「Y」
なんだか囲い込みに近いものもある。S氏は、名曲「愛のことば」
この辺で、「単純に好きな楽曲を入れるのも大事だよね」
んで書いてて初めて知ったんですけど、3~6枚目は、
すごいペースだ。しかもどんどん楽曲の質が上がっている。
7th Album『インディゴ地平線』
発売日:1996/10/23
収録曲
01. 花泥棒
02. 初恋クレイジー
03. インディゴ地平線
04. 渚
05. ハヤテ
06. ナナヘの気持ち
07. 虹を越えて
08. バニーガール
09. ほうき星
10. マフラーマン
11. 夕陽が笑う、君も笑う
12. チェリー
■指名
むる猫BOY→マフラーマン
ぴっぴ→インディゴ地平線
S氏→バニーガール
ぴっぴ氏は、本アルバムを通して聴いたことがなく、
その限られた時間の中で、力強い静けさを持つタイトルナンバー「
S氏は、死をまとわせつつ疾走する「バニーガール」
ここで、「初恋クレイジー」など選んだらお里が知れるな、
私は、単独指名確実と思われる「マフラーマン」を指名。(
遠くに見える地平線からバイクで駆けつけてきたかのようなクレッ
8th Album『フェイクファー』
発売日:1998/03/25
収録曲
01. エトランゼ
02. センチメンタル
03. 冷たい頬
04. 運命の人(Album Version)
05. 仲良し
06. 楓
07. スーパーノヴァ
08. ただ春を待つ
09. 謝々!
10. ウィリー
11. スカーレット(Album Mix)
12. フェイクファー
■指名
むる猫BOY→エトランゼ
ぴっぴ→スーパーノヴァ
S氏→仲良し
ぴっぴ氏指名の「スーパーノヴァ」って、
それもあってチーム全体からSFチックな印象を受ける。
少し間違えると崩れる可能性もある。
S氏の指名は、
バーチャル・
溺れた先にどうなるのか、
9th Album『ハヤブサ』
収録曲
01. 今
02. 放浪カモメはどこまでも(album mix)
03. いろは
04. さらばユニヴァース
05. 甘い手
06. Holiday
07. 8823
08. 宇宙虫
09. ハートが帰らない
10. ホタル
11. メモリーズ・カスタム
12. 俺の赤い星
13. ジュテーム?
14. アカネ
■指名
むる猫BOY→8823
ぴっぴ→アカネ
S氏→ホタル
楽曲のマスタリング作業をアメリカで行った鋭利なサウンドが刺激
この単独指名はデカすぎる。ヘンテコ・ロックを集めていたが、
『空の飛び方』あたりに指名から、
ぴっぴ氏は、
S氏は、ぴっぴ氏お気に入りの「ホタル」に競合覚悟で特攻し、
このあたりで、チームの方向性が一気に明るみになる。
10th Album『三日月ロック』
発売日:2002/09/11
収録曲
01. 夜を駆ける
02. 水色の街
03. さわって・変わって
04. ミカンズのテーマ
05. ババロア
06. ローテク・ロマンティカ
07. ハネモノ
08. 海を見に行こう
09. エスカルゴ
10. 遥か(album mix)
11. ガーベラ
12. 旅の途中
13. けもの道
■指名
むる猫BOY→ババロア→ローテク・ロマンティカ
ぴっぴ→ババロア
S氏→さわって・変わって
このあたりで自分が思ったのは、「夜」とか「海」
アルバム全体のムードががらっと変わってしまうということ。
だから、「夜を駆ける」「海へ見に行こう」
あの「夜を駆ける」に誰もタッチしなかったのは、
だから私は珍しく打ち込みが使用され、無機質な印象も持つ「
色々と悩んだ末に、性格は違えど「ババロア」の同期(?)
こちらの方が、スケールは小さいけど、
S氏は、「さわって・変わって」を、被ることなく、
しかし、のちに判明するのですがこの曲をキー・
〜後半へ続く〜
The World Upside Down(ディズニー映画『ノートルダムの鐘』について)
映画の中で登場人物たちが歌い踊り始めると気分が悪くなる。
思いの丈を歌や踊りで表現され、「World is beautiful」みたいな顔をされると、どうにもげんなりしてしまう。美しい男女や可愛らしい小動物や、目玉をつけたカップやソーサラーが歌い踊り始めると、「そんなことは現実では起こらない」と感じて、混乱する。ウォッカを飲んで悪酔したような気分だ。
そういった映画では、現実では起こりえないことを映し出すことにより、現実を引っ張りだしているのだから、俺の鑑賞態度が間違っているのは明らかなのだけど、それでも気が悪くなるんだから仕方ない。
しかし、生きているとディズニー映画を観る状況がこんな俺にも定期的に訪れる。昨日の夜もそうだった。「ファイトクラブ」のようにディズニーを支持する人間は世界中にたくさんいるのだ。しかも、真っ当に愛されて。
俺は、「The Smiths解散のニュースに動揺を隠せずレコードショップに駆け込む少女を描いた映画」が観たかったが、家の中にもディズニーへの愛は行き渡っている。妻の推奨により『ノートルダムの鐘』という映画を観ることになった。
「冒頭15分だけでいいから見て」と妻が言う。俺は神妙な面持ちでこう答えた。
「本当に15分だけならね。映画の盛り上がりに関わらず、きっかり15分。それ以上は、ない。ディズニー映画を観ると胃痛がしてくるんだ。ディズニー映画が悪いわけじゃないよ。それは体質の問題なんだ。白菜を食べられない人に、いくら白菜漬けのおいしさを伝えても仕方ないだろ?だから15分ね。ここから先の展開が面白いんだよね、とか13分超えたあたりでほのめかしてくるのもやめてね。月曜日の退社後って、1週間のうちで一番疲れている時だからさ。シャワーとかも浴びたいし」
妻は「いいよ」とあっけなく了承した。
約90分後、エンドロールを観ながら俺はだいたい以下のようなことを思った。
『ノートルダムの鐘』は威風堂々とした格好いい映画だった。
冒頭、中世のパリの街並みを這うように進む低いアングルから、カメラが上がって行って、屹立するノートルダム大聖堂が現れたときの、気高さをたたえた迫力に心を掴まれた。
鐘撞き男カジモド、最高裁判事のフロロー、護衛隊のフィーバス隊長という三人の男達が追いかけるジプシーの踊り子エスメランダの、とてつもない魅力。(ディズニー屈指のヒロインだと思う)。
主要人物それぞれのキャラクター造形もさることながら、エスメランダを中心とした関係性が見事としか言えない。
特に、愚者の祭りを背景としたカーニバル「ジプシー・ターヴィ」の場面は圧巻。
醜悪な者が主役になれるという逆転現象により、エスメランダに手招かれながら、大聖堂に籠っていた背むし男・カジモドにスポットライトが当たる。
そのイベントの特別感を味わいながら、主要人物たちが一堂に会し、三人の男たちがエスメランダに特別な感情を抱くきっかけも描かれていて、かつ、カジモドが外の世界の豊かさを知りながらも心に傷を負い、フロローの怒りも買ってしまうというとんでもない場面となっている。
主要人物たちの様々な種類の感情が、たえまなく、自然に、そして楽しく描かれるその手法には舌を巻いた。フロローの徹底的な悪も良い。
「もう15分すぎるね」という妻の言葉を無視し、
ノートルダム大聖堂のように堅牢なこの骨太の物語にくぎ付けとなった。
「風邪をひいても世界観は変わる。ゆえに世界観とは風邪の症状に過ぎない」とチェーホフは言ったけど、人の好みもそうかもね。お勧めです。
スピッツ『ひみつスタジオ』
2023/05/17
仕事をして、すべてが馬鹿らしくもう生産性や人間関係なんてどうでもいいな、と思いながら
合間合間に、何かの抜け道のように、スピッツの新譜「ひみつスタジオ」を聴いていた。
朝の通勤時にカーステで、昼休みに業務端末のイヤホンで、会議中に脳内で、帰りのカーステで、帰宅後にBluetoothスピーカーで「ひみつスタジオ」を聴いた。
蛍光イエローの石ころ拾った(『未来未来』)
委員会の承認を待てば業務は一向に進まず、自ら動けば他部署のお偉方からストップが入り、同年代にヒアリングすればその上長に話がいく。誠実に仕事と向き合えば心は消耗し、程々にやると爪が甘くなりミスをする。酒を飲むと酔う。本音を言えば恨みを買う。言わなければ聞き出される。適当にあしらうと見抜かれる。思い入れのない相槌を打てば、自分が自分を偽ってすり減らす感触だけが残っていく。
眼差しに溶かされたのは 不覚でした(「さびしくなかった」)
性格も悪く、目つきも悪い。人の過ちは執拗に責め立てるが、自らは平気で人を裏切る。優しい人を見つけるとたぶらかす。追い回す。その影が完全に見えなくなると、別の優しい人を捜す。外面は良くても、本腰入れて話せば化けの皮は剥がれる。剥がされた後はだらしなく棒立ちになる。思考が停止すると、思考が停止したとためらわず他人へ伝え許しを乞う。「正直」「実直」「素直」。自分の唯一のファンクラブ会員である自分は、自分の性格をそう言い換えて毎日をやり過ごすものの、その実態は抗うことが面倒で怠けているだけである。世界に問いを立てることが出来ないため、平穏を標榜し安直に日々を送っているのだ。
ここは地獄ではないんだよ 優しい人になりたいよね(「跳べ」)
自分が表現者になれないので、表現をしているすべての人間に劣等感がある。どんなに良い映画を見ても、本を読んでも、音楽を聞いても、面白いお笑いを見ても、「結局、そうはいってもあなたは表現者なんですよね?」と勝手に食ってかかっている。私は聞き手。あなたは話し手。しかしながら、そんな卑屈な心情を何かの原動力にもユーモアにも生きる理由にも特に変換することはなく、タバコの火をつけたり消したりしながら、思考停止し一人でぶつぶつごちている。その独り言を聞かざるを得ないのは飼い猫のムルである。ムルは私が帰宅すると、玄関で待っていて餌を欲しがって鳴く。餌をたいらげて満腹になると沈黙し自分の手足を上手に舐める。そして、しっぽをおっ立てて窓の外を眺める。
会うたびに苦しくて でもまた会いたくなるよ(「ときめきPart1」)
「自分は着実に、気狂い爺に近づいて行っている」と以前妻に打ち明けたら、妻は「もうなっている」と言った。そうか、俺はすでに齢33にして、気狂い爺になったんだ。ところで、気狂い爺である自分はすべての物事がうまくいけばいいと思っている。例えば、京都に住む麻平(あさだいら)君が北海道にいきたいと思ったら、ぜひ行ってほしいと思う。行きたいと言ったまま、ずっと行ってない。みたいな状況が、それが他人であっても見ていて嫌な時がある。もし「お金がなくて北海道には行けない」と麻平が困っているのなら、「はよお金を手に入れて行けや」と思う。そう、思う。思うのみ。私が神様だったら麻平にお金をあげたいと思うが、そんなお金はないので、そう思うことしかできない。そうやって、思うことしかできないのが居心地が悪くて仕方がない。居心地の悪さに耐えられないので、雑に解ったふりをしたり、洗い物をこなしたりして気持ちの悪さを早めに解消したくなる。問題や課題が立ち上がると、すぐに解決したくなる「解決病」患者の素質が自分にも備わっているのかと思うと、怖い。それに、現実ではお金に困っている人にお金をあげようとしても、何故かあげられなかったり受け取らないケースは多々ある。現実は「お金をあげる」「お金をもらうね、ありがとう」のおままごと的な平和は立ち行かなくなる。そうなると、単純なことしか考えられない自分は、まためくるめく思考停止のループに突入してしまう。
マニュアル通りにこなしてきたのに 動けなくなった心(『修理のうた』)
2018年頃に東京から故郷戻ってきたことをきっかけに私はランニングを始めた。走っていると、何も考えていなくても、とりあえず走っているので、思考停止で生きている私はわりと居心地がいいことを発見した。だって、なんにも考えてないくせに家で本読んでいてもバカみたいだから。頭のいい人やものを日頃考えている人は、読書しても居心地がいいかもしれないけど、読んだ側から穴の空いたばけつのように即座に文章を忘れていくし、読み違えるし、鰭も鮨と読むし。じゃあ考えなくてもいい本を読めば?と提案されるが、そんな本読む必要ない。それなら音楽聴いて僕は歩きたい。友達とくだらない話したり、コンビニのエクレアを食べる。どうして世界はこんなに思考や意義で満ちているかのように振る舞うのだろう?世界に向かって、もうコスプレはやめろ早くステージを降りろと言いたい気分で生きている。
ひとつでも幸せをバカなりに掴めた デコポンの甘さみたいじゃん(「めぐりめぐって」)
小学生2年生の頃に、母の運転する軽自動車のカーステレオから『空も飛べるはず』という歌を聴いて、はじめて歌詞カードを読み、「幼い微熱を下げられないまま」という歌い出しにたじろいだ。「幼い」と「微熱」が組み合わさるなんて。そんなことをしてもいいの??怒られないの??誤りじゃないの??衝撃だった。そこから自分も歌詞をかいたり曲をつくったり、文章を書いたり演劇をしたりもした。大学に入って3度留年し卒業して、就職したり退職したり結婚したりしていると気が付けば33歳。思えば、その間の約二十五年、ずっとスピッツを聞いてきた。
毒も癒しも真心込めて 君に聴かせるためだけに(『オバケのロックバンド』)
何故こんなに良い楽曲を生み出せるのだろう?その理由が知りたくて、スピッツのルーツを辿り、ブルーハーツを聴き、パンクロックというジャンルを知った。御三家の中では、クラッシュが多彩で好きだった。自分でもやってみたくなりギターを弾き始めると、ギターのいろんな音色を聞くのが楽しくなってきて、ブリットポップから入り、シューゲイザー、グランジ、ツゥイーポップ,
ネオアコとがっつりハマった。結果、自分は粗いがさつなローファイのギターストロークに、きらきらの俗にいう角砂糖のようなアルペジオが重なって、ユーモアいっぱいに跳ね回るベースがあって、堅実なドラムがそれらを支えている、というような構図の四人編成バンドが大好きなのだと知ることができた。
しなやかでオリジナルなエナジーで 新宿によく似てる魔境 駆け抜けてく『Sandie』
新譜の1回目を聴いた感覚は、当然その1回目のみでしか味わうことができないので、これから何十年も聴くにつれて印象は変わってしまうから、その1回目の印象をここに閉じ込めるため、書く。
01『i-O 修理のうた』をパジャマのまま聴いたが、聴きながら、朝から精神が修復されていく実感があり、まだ一日は始まったばかりなのにな、と自分の現状が笑えた。通しで聞いたけど、この曲は謎に満ちてますよ。聞き込みたいです。
02『跳べ』はエネルギッシュでギュッとつまった音。『あわ』で「優しいひと やっぱりやだな』と歌っていたひねくれ者の彼らが何十年も経て「優しい人になりたいよね」と歌っているんだけど、その二つが相反したことを言っているようには感じない。勇気の出る強い歌詞だけど、ハードなクレーム対応のあと、社内の人から労いの言葉をかけられた時につい出てしまう本音のような、どこか「ぽろっと」感のあるサビの歌詞が良い。
「つまようじ」という小さな小さな単語から幕開ける03『大好物』は大ぶりの桃にかぶりついているような、こぼれた果汁まで美味しくいただけるような(?)幸福感。「君の大好きな物なら僕も多分明日には好き」というフレーズで接近したあとに、「そんなこと言う自分に笑えてくる」でスウェー・バックする、そのバランス感覚に惹かれる。
04『美しい鰭』は、名探偵コナンの予告編でサビだけ聴いていたけど、フルで聞くと、楽しい楽しいAメロ。ジャンプしたクジラがあげる水しぶきのようなドラムから、優雅に大海原を渡るようなギターフレーズにびっくり。この曲、最新のチェリー、って感じ。
05『さびしくなかった』。一番好きかも。「Holiday』や『ハヤブサ』で見せたような、逆説的な歌詞とこの淡々とした曲調が合わさって、聴きながらいろいろと個人的な思いを馳せてしまいそう。2、3、4と、映画「スティング」のような充実した内容の曲が続いていたので、この余白のある感じがいいです。「さびしくなかった君に会うまでは ひとりで食事する時も ひとりで灯り消す時も」最高ですね。
朝の通勤時に本作を聴いていたんですが、この06『オバケのロックバンド』で泣いてしまいました。理由はわかりません。演奏すること自体を歌っていたり、メンバー全員ボーカルだったり、ギターが粗めでカッコよかったり、色々あんのかもしれませんが、曲が持つ雰囲気なのかなって思います。「君に聴かせるためだけに」はややあざといけど、ずっと「君」へ歌ってきたスピッツが歌うので説得力が段違い。
この辺から、最近ぽいというか、07『手毬』と08『未来未来』はあえて挙げるなら、スカートっぽいなと思いました。スカート『暗礁』のイントロの感じと『未来未来』近しいなって。『手毬』の浮遊感のあるメロディがたまんないですね。春の日に散歩していたら風が吹いて、風にさらわれてそのまま宇宙旅行してしまったような、ロバート・F・ヤングの「たんぽぽ娘」的な甘いSFチックな印象をなぜか受けました。草野さんがアシモフ好きだという情報を、「スピッツ2」で知ったので勝手に連想してしまっただけかもしれませんが。
『未来未来』は、スピッツ好きな友達も「一番人気みたい」とツイッターの情報を教えてくれましたが、すごくかっこいいです。エッジの聴いたカッティング・ギターとスーパーボール並みに弾力のある田村さんのベース、崎山さんのタイトなドラムで始まって、アッテラ族の祭りで聞こえてくるようなヴォイスが。そこに冷凍都市のようなストロボ・ギター。ちょっとゲーム・チックだなって思いました。ワクワク感半端ないです、このイントロ。
09『紫の夜を越えて』先行シングルですね。静かな始まりから、ゆったりと体が持ち上がり、現在へ立ち向かっていくような頼もしい一曲。これは近年の楽曲傾向としても言えるんですが、繊細さと力強さを兼ね備えて、かつ現代を照射していますよね。ビシビシ気迫を感じられる強気な名刺曲です。
10『Sandie』シリアスの後はコメディ、緊張の後の緩和、サウナの後のオロポ、ではないけど、呑気でご機嫌なナンバー。昼休みにこれを聴いてたんですけど、午前中の仕事のストレスがふっとなくなったような一瞬が訪れたんですよね。「力抜いていこうよ」の直接的な一言では、絶対不可能な本当の力の抜き方に成功しました。肩軽くなりました。スーベニアの自転車的な立ち位置?
11『ときめきpart1』。作家の村上春樹さんは、文章で「ヤバい」は使えない、と言っていたけど、草野さんは使いました。普遍性の捉え方が違うのかもしれない。音楽家は瞬間の凍結に永遠性を見るのかも。歌詞においては、言葉がファジーでも楽曲によりニュアンスが補強されるから、「ヤバい」みたいなミラクル多義語を使用出来んのかもしんない。「恋のうた」や「恋する凡人」で生きる理由を恋するためと断言し、「コメット」では「恋するついでに人になった」と歌い上げた草野さん。このまま、ときめきと心中して欲しい。この曲も大好きです。
12『讃歌』は、ちらっと過去を振り向くのではなく、思い切り過去と相対し、その上で進んでいくっていう堂々とした態度の曲って印象。重めの曲、暗めの曲はそのまま思う存分堕ちていこう!の姿勢を貫く楽曲が多かったけど、今はやはり前を向くっていう姿勢ですね。こう言う曲は、いちいち共感すんじゃなくて、信頼して体を預けるように聴きたい。
13『めぐりめぐって』はまさに「ひみつスタジオ」のような一曲。絵本を開いていたら、ぐりとぐらがページから出てきてしまい部屋全体にホットケーキの香りが充満したかのような、そんな楽しさがありますね。「みなと」ぐらいから、歌う事・演奏する事自体をテーマに取り上げることに躊躇いがなくなったような。ファンとしては、嬉しい吹っ切れ方をスピッツはしてくれてますよね。
こんなところが、新譜を聞いた第一印象です。読んでくれた人、ありがとうございます。最高のアルバムですね!
思い出に浸るのがやめられない
ケイト・エリザベス・ラッセルの『ダーク・ヴァネッサ』
いったいどんな話?と訊かれたら、寄宿学校の生徒と教師が、
ただ複雑なのは、
しかし、周りの学校関係者からすれば、
物語前半は、ストレイン先生の女生徒と男女関係に至るまでの、
①生徒を褒めそやす(例:きみは感情知能指数が天才級に高く、神童のような文才があり、なんでも話せて信頼できる)②
③を実行し、女生徒の反応を伺い、嫌がらなければ押し、
「グルーミング」と言う言葉には、猿のノミ取りだけでなく、
ストレインのグルーミングは確立されている。
彼の殺し文句をいくつか引用する。
「ほら、きみの髪の色とそっくりだ」
「われわれは似た者同士なんだ、ヴァネッサ」
「
「いまなにをしたいかわかるかい」
「きみを大きなベッドに寝かせて布団を掛け、おやすみのキスをしてあげたいんだ」
「きみの人生にとって、好ましい存在でありたいんだ。
「どうかしているな。こんなことを話すべきじゃないのに。
物語は、2004年の当時と2017年の現在が交互に語られ進ん
2人の長電話は、年老いたストレインにとっては、
#Me too運動がアメリカで拡大し、性被害者が声をあげ、
現在の生活が上手くいかずに何もかも諦めたくなる夜に、
ラストへの展開が、やや恣意的で強引な気はするけれども、
悲しみにひたるのがどんなに快感か、母はわかっていない。フィアナ・アップルを聴きながら何時間もハンモックに揺られているのは、幸せでいるより快適なのだ。(上巻、P25)