周辺幻

沖の監視

アフタートーク

暇さえあれば、ニューヨークのYOUTUBEチャンネルを見ているので、仕事中にも、彼らの声が脳内で流れるようになった。

 

友人Sの脳には、Aマッソが。

友人Kなら、空気階段

友人Dと共に、爆笑問題がディレイする、嗚呼、遥かなる日本言論…

消えた天才Aは、インパルス板倉。

かつての同期は、ダウンタウン

かつての僕は、内村光良

今の脳は、ニューヨーク。

未来の僕は、ウッチャンナンチャン

 

眠りにつく前に、YouTubeチャンネルのラジオを聞く。目は閉じている。20代の頃は、目を閉じていながら意識は覚醒していた。今は、目を閉じると眠りに落ちてしまう。明日も仕事があるからだ。

 

同じ曲をリピートするように、こんなことを考える。

………ランジャタイ、馬鹿よ貴方は、野性爆弾くっきー!、バカリズムバカリズム

数多の芸人達が、ウッチャンナンチャン南原清隆をネタに落とし込み、題材にとり、爆発を試みてきたが、志半ばで中断し、また本来のトリッキーな己のスタイルにスムーズに帰って行った。もし、またアメトーーク南原清隆大好き芸人を誰か標榜し実現したとして、それは時の進行のようなものであり、前を見れば道がないことと同質で、リングの魂時代の暴れ南原を知っている編成委員達が首肯く訳はないので、ね、フラジャイルなセンチメンタリズムに過ぎないんだけど、ね、ね、じゃあ南原というカテナチオをどこから切り崩すか、サイドから責めて中央にインしてヘッドしようか、やー、サッカーはめっちゃ嫌い。

ね?

具体的な話をしよう。

 

先ず。大前提として、南原はスタジオに登場しない。「桐島、部活〜」古くは三島由紀夫の「サド侯爵夫人」スタイルで、完全なスケープゴートに仕立て上げる。

 

次。アフタートークも一切なし。

近年はM-1グランプリキングオブコント後の芸人ラジオまでを聴きあさって、やあ、ようやくM-1全て見たって風潮があるけれども、それはRPGの本編だけをクリアしてアイテム収集、「ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド」のコログ集めの喜びなんだけれ、ね、ども、ね?そこは南原に対する態度、忠誠心、連隊意識、敬意そのもの及び大いなる勘違いを携え、厳密に禁じます。繰り返します。

アフタートークは禁じます。

 

なぜなら、それを許可(よしと)すると、本番の不本意を回収しようとしたり、本番の沸騰を再現しようとして、祭りそのものの価値が減少するからだ。それは、味のなくなったガムを二日噛み続けて「やっば、また甘くなってきた」と天に向かってごちていることだし、遠足は前日や後夜祭が楽しいもんだけれど、ここではやめときましょう。

当日にきっかり照準を合わせましょう、って話。

 

だからね、南原をどうしようかって考えるんじゃなくて、南原を題材に自分たちを考えよう、南原をテーマに絵を描いてみよう、南原を言葉にして内容を決めつけよう。自由を施錠して金銭を思い出にしよう………

 

7時20分、起床。

家を出て仕事に向かう。

通勤中、Bluetoothのスピーカー越しに、ニューヨークがうたう「白い雲のように」を聴く。道中ローソンでおにぎり二個とみそクリームコーンポタージュというガラパゴスカップ・スープを買って、自転車を飛ばす冬の男子学生を見やりながら彼らに背を向け煙草を吸って、ニューヨーク屋敷が浅野いにおについて話していた場面や、M-1が近づくに連れてフェイスシールドからマスクの装着率が上がった緊張を脳はざくざく再生しながら指紋認証でオフィスに入る。

階段を上がり、自席に着きながら

「おはようございます」と僕は言った。

「おはよう」上司がパソコンの画面を見ながら言った。

僕もパソコンの電源をつけ、パソコンの画面を見た。

「おはようございます」新入社員の声がした。僕は声の方向へ向き直り、「おはようございます」と言った。

新入社員は、南原ではなかった。南原ではない新入社員の名前を僕はまだ覚えていなかった。何故なら、新入社員の入社の挨拶は、「ナンバラバンバンバン」ではなかったし、簡潔で要領を得ていたからだった。簡潔で要領を得ていることは、素晴らしいけれども、僕にはそぐわなかった。

「櫻井先輩、あの、どうしたんですか」後輩が言った。

「え?」

「あの、服…、今日はスーツと違うんすね、ね?」

後輩の声は震えていた。

僕は肩に紺のラインが入った白のコットン生地のTシャツと紺のハーフパンツに「さくらい」の刺繍が施された小学生時代の体操着を着ていた。南原氏は夢の住民に戻った。今日は朝から会議。午後イチ、取引先と会う。上司は体操着姿の僕の隣でパソコンの画面を尚見つめている