周辺幻

沖の監視

【短編小説】嘔吐2023

漫才を見ると吐く女は、僕と暮らし始めるまでお笑いをまともに見てこなかった。ダウンタウンも、明石家さんまも、タモリも知らなかった。 特に何があったわけではない。厳格な家庭に育ちバラエティを一切見せてもらえなかったからとか、西のお笑い文化を一切…

もしボードレールがパンクロック歌手だったなら

めっちゃムカつく。なんにも分かってない、客も、偉そうな評論家共も。バンドの奴らも。 そもそも、いろんなことから解放されたくて音楽やってんのに、ノリとか韻律とか、そんなこまけーことに拘泥しやがって。テクに溺れて。練習時間や成果を観客に嗅ぎ取っ…

スピッツドラフト会議2023(後半)

Special Album『色色衣』収録曲01. スターゲイザー02. ハイファイ・ローファイ(NEW MIX)03. 稲穂(NEW MIX)04. 魚05. ムーンライト06. メモリーズ07. 青春生き残りゲーム(NEW MIX)08. SUGINAMI MELODY09. 船乗り10. 春夏ロケット11. 孫悟空12. 大宮サンセット…

スピッツドラフト会議2023(前半)

ルール・スピッツが発売したオリジナルアルバム17枚+スペシャルアルバム2枚(『色々衣』『花鳥風月+』の中から、曲を指名・獲得し、全19曲の魅力的なアルバムをつくる・曲の指名競争は、同じアルバム内から行われる。まずは、1stアルバム『スピッツ』…

The World Upside Down(ディズニー映画『ノートルダムの鐘』について)

映画の中で登場人物たちが歌い踊り始めると気分が悪くなる。 思いの丈を歌や踊りで表現され、「World is beautiful」みたいな顔をされると、どうにもげんなりしてしまう。美しい男女や可愛らしい小動物や、目玉をつけたカップやソーサラーが歌い踊り始めると…

スピッツ『ひみつスタジオ』

2023/05/17 仕事をして、すべてが馬鹿らしくもう生産性や人間関係なんてどうでもいいな、と思いながら 合間合間に、何かの抜け道のように、スピッツの新譜「ひみつスタジオ」を聴いていた。 朝の通勤時にカーステで、昼休みに業務端末のイヤホンで、会議中に…

思い出に浸るのがやめられない

ケイト・エリザベス・ラッセルの『ダーク・ヴァネッサ』という小説を読んだ。いったいどんな話?と訊かれたら、寄宿学校の生徒と教師が、恋に落ちる話!と答えてしまいそうにもなるが、それは全くの、全くの間違いで、実際は、十五歳の赤毛の女の子と四十二…

成長したくない 『学びを結果に変えるアウトプット大全』樺沢紫苑

学びを結果に変える、そうタイトルに書いているにもかかわらず、この本を手に取って、読んで、今もやもやした気持ちでいるのは、自分が「成長」とか「結果」とか「成功」という言葉に嫌悪感を抱いているからだ。アウトプットが手段ならば、その目的である「…

『OUT』

登場人物それぞれの視点から物語が語られていくので、どの人物にも感情移入してしまう。雅子のきびきびとしたものの言い方は、歯切れが良くて頭が切れて気持ちがいいけど、近寄り難さを周囲に与える。彼女からは、誰をも信頼していないことが伝わってくる。…

aikoの磁石を聴いて

この曲を聴いた時、たぶんaikoは本当のことを書いたのではないかなと思った。「磁石」のAメロは速い展開であっという間に歌詞が流れ気がつげはサビって感じなので、3回目くらいまでは何を言っているのかほとんどわからなかったが、20回くらい聴いて歌詞を読…

2020年で面白かった本とこれから読むであろう本のこと(後編)

11.『ねじ式』 12.『紅い花』 ねじ式 (1) (小学館文庫) 作者:つげ 義春 発売日: 1994/12/14 メディア: 文庫 紅い花 (1) (小学館文庫) 作者:つげ 義春 発売日: 1994/12/14 メディア: 文庫 寝室の電気を消して枕元の薄ぼんやりとしたランプの灯りで読書を…

2020年で面白かった本とこれから読むであろう本のこと(前編)

仕事納めの帰り道。次回出勤日の前日、1月3日まで、自由を謳歌しよう、それはもうめちゃくちゃに謳歌しよう、限定的な休暇を味わうためなら何だってやってやるぞと息巻いてはいたものの、結局思いつく行動は本を買うことぐらいなのであった。 明日は県内最大…

アフタートーク

暇さえあれば、ニューヨークのYOUTUBEチャンネルを見ているので、仕事中にも、彼らの声が脳内で流れるようになった。 友人Sの脳には、Aマッソが。 友人Kなら、空気階段。 友人Dと共に、爆笑問題がディレイする、嗚呼、遥かなる日本言論… 消えた天才Aは、イン…

わたしの東京(2018年 晩夏)

雨上がり コンクリ娼婦の匂い スライ&ザ・ファミリーストーンの Mp3の音源とクリーニング屋のバイト チェーン居酒屋の粉薬っぽいビール 親しみを込めては 懐かしんだり妄想したり 爆音 意味なきアイロニー モッシュと流行が首都高速道路のようにぎりちょんに…

煩悩108 コンテンツリスト

1.スピッツ(バンド) 2.モーリスのアコースティックギター 3.バカタール加藤編集長時代のファミ通(ゲーム雑誌)4.マイルドセブン・スーパーライト(煙草の銘柄) 5.MTR(多重録音機)6.階段護岸 7.ガーゼ 8.深夜のパーキングエリア 9.コンビニエ…

音楽・映画・読書

不安である。日曜日の夕方にさしかかると、すっかり参っている。 みんなどうやってこの不安に対処しているんだろう。不思議で仕方ない。不安で仕方ない。 おそらくは、僕が感じている不安を、形は違えど、周りも同様に感じているには違いない。そうでなけれ…

Sketchy1巻

浪人生の頃。今ではもう、どこまで本気だったのか分からないのだけど、手帳にこんなメモをした。 ①バンドマン、②物書き、③芸人 上記以外になれなければ、自殺すること。 バンドも物書きも芸人も、真似事のようなことはしたけれど、結局あれから約十二年間経…

ある日

午前七時、起床。 仕事に行く。 帰途、海岸公園に車止め夕焼け見て沈黙。上司から電話来る。 夕食、入浴、済ませたのち、 本棚から本9冊抜き取りベッドに潜り込む。 本には手をつけず、スマートフォンでカリスマホスト・ローランドの名言集と、ダニエル・ラ…

ボーナスの使い道

他人に本をオススメされても、何故か触手が伸びない。けれども、自分で選ぶ本だけでは限度がある。ここのところ同じような作品を繰り返し眺めているような気がする。本屋に入店し、くらくらっとめまいがする。たくさんの本、本、本。本の山。自分のために書…

シチリア詩人の重要な一言

「あたし、大丈夫かな……」 「いつか 親ともお別れがくるんだもんね」 「オレも怖い……」 「うん」 「あたしたち、夜の子供たちだね」 (『泣き虫チエ子さん 旅情編』益田ミリ 大人になるということ)より シチリア詩人は「風が気持ちいいね」と言うはずだった…

キム兄のワラライフ!を観ずしてしずる村上純について言及するということ

ずっと気になってはいるけれど、買わない本、というのがある。 高所得者ではないので、まず価格の問題があがる。ハードカバーで1700円を超えると、躊躇いが生まれてくる。カフカやエリック・ホッファーの日記、サリンジャーの評伝。平気で5000円する…

緩慢な敗北

タイトルを「一時撤退」にしようかとも、悩みましたが、敗北で間違いありません。 だいたい、三年前くらいから、私は「好き」という感情に対抗しようとあがいてまいりました。 ?どういうこと。 説明します。 きっかけは、お気に入りのバンドの映像をYouTube…

チョーカー・ガール

チョーカー・ガールに質問される。 「さくらいさんは、何で地元に戻ってきたんですか」 少し迷って、答える。 「家のことで、かな」 「ああ、家のことなんですね」と、彼女は言った。 「おまえは何で東京を出たの」と、私も彼女に尋ねる。 彼女の首元の黒い…

チョコレート

穂村弘『にょにょっ記』を読む。 『にょにょっ記』の解説「偽ょ偽ょっ記」なるものを西加奈子が担当していて、その中でこんなことを書いていた。 この間も、チョコレートはガーナが一番美味しいんやで、と言うと、そうなの、と目を丸くしていた。 西加奈子は…

言い出しかねて

「孤独とはなんだろうか君」 「ひとりでいることだね」と彼は言った。 即座の返答に思わず納得しかけたが、いやいや彼の回答は間違っていると思った。けれども、だからといって、それを口にはしてはならない。相手の意見を否定して、関係が冷え込んでいくの…

雪玉

男の子2人と女の子1人が、雪玉を壁にぶつけて遊んでいる。 女「紫色に当てたら優勝」 男A「えー、きついって」 その壁はステンドグラスみたいにいろんな色が使われているのだ。子どもたちの身長の10倍くらい高い壁に、男Bはすぐさま丸めた雪玉を投げる。男…

暖冬の高速道路入り口で(交通マナーを守りましょう)

暖冬の高速道路入り口で 炬燵に蜜柑リモコンの電池 中産階級後部座席へささやかな加減乗除教育 三連休の最終便はサウナ後の水風呂後の白湯 しきたりに空の青さを持ち出して聖書の限りを尽くす警官 シートベルトしても外しても目的地絶対に変わらない 海へ

2018年の本 リコメンド10冊

2018年は、わりと本読みました。数えたら177冊でした。 表題の件、ご報告します。 部屋の本棚眺めながら、10冊、思うつくまま並べました。順番は、あってないようなものです。 1『カラマーゾフの兄弟』 カラマーゾフ家の道化師、フョードルが特に…

月曜の朝に

通勤電車の中で、こんな想像をすることがある。 成田空港の従業員用トイレの中で、わたしはまっさらな赤のスカートとジャケットの制服に身を包み、メタルブラックの太いベルトを巻いて鏡の前に立っている。ロビーへ出ると、口紅を強めに引いた口角をやわらか…

思い出

遠野光啓が故郷の青森で昏睡状態で発見されたのは、彼が上京七年目にして初めて東京で雪を見た日のことだった。彼がその夜に東京のアパートから徒歩で青森まで向かったのは、例えば出発が深夜だったので終電車がなかったとか退廃的な生活に反して健康優良児…