周辺幻

沖の監視

キム兄のワラライフ!を観ずしてしずる村上純について言及するということ

ずっと気になってはいるけれど、買わない本、というのがある。

高所得者ではないので、まず価格の問題があがる。ハードカバーで1700円を超えると、躊躇いが生まれてくる。カフカエリック・ホッファーの日記、サリンジャーの評伝。平気で5000円する。それが高いのか安いのか、僕には分からない。

 

今月のクレジットカードの精算額をアプリで確認し、価格の問題をクリアすると、

あとはようわからん自意識の問題だけが残る。「難しそやなあ」とか「面白そやけどまたの機会かなあ」とか「いてこますぞ」とか「ようけ文字がほんましっちゃかめっちゃか心の臓(しんのぞう)がたがた震えとりますさかいに」とか…

「気に食わない」とか…

その日も僕は星野源のエッセイを手に取ることなく通り過ぎレジカウンターへ岩波文庫の赤を3冊置いた。

 

本屋に行くと、ロイド・メガネをかけてシャツのボタンを一番上まで止めた文庫本片手の彼がこちらを見ている。一九八四年のビッグ・ブラザーみたいに彼は僕を見ている。歌、ダンス、コント、役者、ラジオ・パーソナリティにして物書き。人は肩書きで測れるものではないけれど、彼の肩書きは華々しくてやはりすごい才能があるんだなとふわふわ想う。

 セカンドアルバムの『エピソード』はなんべんも聞いた。「MOTHER」のネス似の少年が印象的な赤いジャケットのCD。「湯気」という曲をくりかえし聞いたのは、大学1年の秋口だった。

 彼が所属する劇団の公演も観に行った。下北沢本多劇場大人計画の公演前のBGMは、彼の弾き語りだった。劇は面白かった。二度、笑った。一緒に行った後輩の女の子も大笑いしていた。ああ、そう。

 

 星野源と言われて連想する芸人といえば、バナナマンの二人とかケンドーコバヤシとかウッチャンとか植木等とか色々候補が上がるけど、僕は断然しずる村上純の顔が浮かんでくる。

 村上純星野源をライバル視している。LIFE!のスタジオトークで相方の池田一真が話していたので間違いない。

しずる村上さんにとって、好敵手は星野源

スタジオは「別ジャンルじゃん」みたいな感じのツッコミでウッチャンがあの笑顔で柔らかく捌いてたけど、僕はかなり村上純の気持ちがわかった。痛切に。村上純の小説「青春箱」は皆さまお読みになられましたか?「青春箱」の表紙は、黒ハットにテーラードジャケット村上純が教卓みたいな箱から無表情でこちらを見据えているというもの。そういうわけで、僕は星野源村上純を重ねて考えてしまうのだ。

 

もしも高校のクラスメイトに、星野源大泉洋ムロツヨシがいたら…

あの年代の文化系の男子は、面白い=人生の価値と定義している時期が抗いようもなく存在し、例外なく高校生の僕も「つまらないって犯罪でしょ」と大森靖子みたいな思想をきっちり携えていた。

 星野源大泉洋ムロツヨシがいたら…どうしたらいいんだろう。勝手にスター達をクラスメイトにさせて、僕は対策を練っている。想像の中で僕は星野源に敵意を露わにしている。だが、新学期が終わる頃には僕は星野源に長い電話をかけ、村上純の話を嬉々として披露する。村上純は文化祭の前日、海岸で瓶のレモネード片手に真面目な顔で「明日は楽しもうよ、人生で一度きりの高校時代なんだから」と言ってきたのだ。僕は彼がどこから瓶のレモネードを入手してきたのか、あの夏不思議で仕方なかった。そのことをどうしても星野源に伝えたかった。星野源は受話器の向こうで毅然と爆笑した。

 

モテることはいくら努力してもできねえ。モテるには先天性の才能が必要で、それは顔が不細工だろうが、性格が悪かろうが、服がダサかろうが関係ない。女性の懐にいつの間にか入り、気がついたらセックスをしているというまったくもって謎の能力がこの世にはある。そして僕にはそれが微塵もない。

ー『働く男』

 

 

働く男 (文春文庫)

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短編小説集 青春箱

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