周辺幻

沖の監視

aikoの磁石を聴いて

この曲を聴いた時、たぶんaikoは本当のことを書いたのではないかなと思った。「磁石」のAメロは速い展開であっという間に歌詞が流れ気がつげはサビって感じなので、3回目くらいまでは何を言っているのかほとんどわからなかったが、20回くらい聴いて歌詞を読んだ今も改めて彼女は本当のことを書いたのだと思っている。それは、歌詞に歌手の個人情報やファンしか知らないようなメッセージが散りばめてありそれを僕が「解読」したからではなく、ギターの音や、部屋で独り言つように捲し立てられる歌い方に、何か訴えてくるものを勝手に感じ取ったから。

 

2番の歌詞。「匂いの散らばるジャケット 帰って来たらいつもバツが悪そうに椅子に丸まって」と言う歌詞は、なかなか想像しにくい描写だ。普通に読んだら、夜遅く女の香りをまとわせて帰宅した、別れを見越して開き直っている浮気男を連想する。でも、曲は「膨れたポケット ろくなもんじゃない 多分「それなに?」と聞く私もいない」と続くから、分からなくなる。この歌詞が実際の出来事だとするなら、ろくなもんじゃない膨れたポケットを「あたし」が指摘することはなかった訳だ。しかも、「多分「それなに?」と聞く私もいない」と続くのだから、このシチュエーション自体が想像で、勝手に最悪な未来を想像して打ちひしがれているんじゃないかと思う。

じゃあ、やっぱりこの曲は本当のことなんか書いてないじゃん、となるんだけど、この整合性の無さになーんか妙な迫力がある。恋に落ちている時は世の常識が機能しないので、「あたし」は錯乱の状態にある。膨らんだポケットを見た瞬間が「あたし」にとっての恋の一番苦しかった時とするならば、「あたし」は消えてなくなりたい、と願ったり、ありえない風景を思い描きそれを現実と認識してしまっていても何ら不思議でない。それは、むしろ当然の心理状態だ、と僕は思う。

PVの57秒のaikoの体勢は、失恋を歌によって昇華させ前に進むと云うよりかは、その時の記憶をむりやり引きずり出そうとしているように見える。イタコみたいに。だから、当時の自分に憑依しつつ当時の自分が創り出した幻覚を歌う、と云う二重の記憶を歌っているのではないか。だから、「多分「それなに?」と聞くあたしもいない」なのだ。

 

繰り返し歌われる「あなたを大好きなあたしがいるのは あなたにずっと憧れていたから」は100%のキラーフレーズで、自分で自分を説き伏せようとしている感じが切実で哀しい。

改めて繰り返しますが、これは僕の解釈で、おそらく大いなる誤読だけれど、それはメロディの展開と歌唱の迫力がもたらした誤読。

とにかく、胸に残る曲です。