周辺幻

沖の監視

成長したくない 『学びを結果に変えるアウトプット大全』樺沢紫苑

学びを結果に変える、そうタイトルに書いているにもかかわらず、この本を手に取って、読んで、今もやもやした気持ちでいるのは、自分が「成長」とか「結果」とか「成功」という言葉に嫌悪感を抱いているからだ。アウトプットが手段ならば、その目的である「成長」ってものの正体は掴みきれなくて、なんだか実態がなくて、よく分からんのです。「よく分からんのね。ああそう。でも嫌悪感持つ必要はなかろう。なんでなん?」と訊かれたら、うまく説明できる自信はないけれど、それらの言葉にはなーんか押し付けがましさがあるなって感じるんです。とは言っても、「僕は成長したくないんです」だけでは「あっそうっすか。好きに生きてください」の一言で終わってしまうから、もう少し「成長」を具体的に考えてみると、例えば高校時代ギターを毎日触っていたらバレーコードを弾けるようになるのは嬉しかった。それによって、ブルーハーツの大半の曲を弾くことができるようになったからだ。『月の爆撃機』はA,D,Eのスリーコードで弾けるにも関わらず美しかったから(もしかすると3コードだから美しいのかもしれない)満足もしていたけれど、やっぱり、『皆殺しのメロディ』の「夜の闇に悲鳴を上げた少年が今オオカミになる♪」の大サビの昂りをFが弾けることで、なぞることができたのは嬉しかった。それはギターの技術が「成長」したからなのかもしれない。他にも、知らない言葉を覚えたり、知らない場所を訪ねたりして、「成長」して、新種の感情を獲得できるのだとすればそれは有意義だと思う。ただ、それがやはり「成長」や「結果」みたいな言葉に収斂されるとどうも居心地の悪さというか落ち着かないそわそわした感じを僕は持ってしまうのだった。「結果出せよ?」口を閉じろ、民間人。

本書は、精神科医で作家でもある著者がアウトプットの価値や、その具体的なノウハウを80もの方法でまとめたもの。何かこの本で新しいことを学んだ、というよりも、すでに自分が実践していた内容を権威ある人に改めてそれらは大事なんだよ、と背中を押されているような感覚で読み進められ、安心した。といっても、「挨拶する」とか「人に感謝する」とかそりゃそうだろ、みたいなことが書かれているから、ある程度、みんな出来ていることだとも思うのだけど。でも、本書は「挨拶がいい」でもちろん終わることはなく、なぜ人に挨拶するのがいいか・なぜ人に感謝するのがいいかということを、心理学者エリック・バーンの提唱する考えやセロトニンやらオキシトシンなどの脳内物質が分泌されるからだよー、などといちいち意味付けしてくれるので「ははー、心理学や脳科学的にも挨拶や感謝することは正しいことなんすね」と日本酒をのみながら、思った。挨拶がいいのはわかるけど、「挨拶がなぜ良いか」を説明できる能力は頭のいい人の特徴って気がするし、自分は全く持って説明能力というものを持ち合わせていないので、頼もしい限りだ。これが結果出すってこと?結果出すことなんだろね。

僕が本書で一番知りたかった「書く」という分野については、アマゾンのレビューとかツイッターとか駆使してどんどんインターネット上に公開しなさい、みたいな助言がなされていたので、あまり人の目とかは気にせずに(なにせたくさんのアウトプットで現代社会は埋め尽くされている)やっていってもいいのかなあ、と考え、とにかく文字をタイプしている。手を動かすのは何にせよ良いことだ。

最後:ブログのタイトルはラモーンズの楽曲「I Don't Want To Glow Up」から取りました。こちらもコードを4つほど覚えていれば弾ける曲です。誰でもちょっとギター触っていれば弾ける曲ってのは、親切だし、貴重ですね。