周辺幻

沖の監視

Sketchy1巻

 浪人生の頃。今ではもう、どこまで本気だったのか分からないのだけど、手帳にこんなメモをした。

①バンドマン、②物書き、③芸人

上記以外になれなければ、自殺すること。 

 バンドも物書きも芸人も、真似事のようなことはしたけれど、結局あれから約十二年間経過し、サラリーマンとして私は今日を生きている。オフィスで紙を整理したり「各位」宛にメールを送ったりしている。時間を拘束する代償として会社は私の普通預金口座へ給料を振り込む。月末、私は額面をコンビニのATMで確認し、うれしくなったりして、そのままレジへと移動し、チョコとたばこを買う。一服。黄ばんだ前歯の隙間から甘い煙が漏れゆく。死の気配はない。メモの誓いは守られなかった。

 もちろん、メモの書き手がこれからバンドを始めたり、ものを書いたり、スクールJCAに願書郵送(今念のためJCAを検索したら「応募資格:17〜30歳までの健康な男女」だった!ぎりぎり!)することは出来る。まだメモの①②③を達成出来る可能性が残されてなくもない。みんな夢追い人。イェイ。

 しかし、このメモはおそらく早期的な職業的成功を企図して書かれたものだろう。簡潔な文面と荒々しい鉛筆の筆跡が、当時の切迫感・飢餓感・渇望感を現していて、「これから人生どうなるかなんて分からないんだよ」なんて言おうものなら、睨まれ罵られること請け合いだ。

 

 sketchy1巻には、美容師のアシスタントをしていた女の子が出てくる。彼女のときめきはありふれた種のものだけれど、ときめきが続いている間は無敵なんだから、春風を切るように速やかに、スケートボードにのめり込んでいけばいい。